ジョブリターン制度とは、やむを得ない理由で退職を余儀なくされた従業員を、本人の希望で再雇用する制度です。「育児のために退職したが、落ち着いたのでまた働きたい」「配偶者の海外転勤のため退職したが、日本に戻ってきたのでまた働きたい」といった声から、ワークライフバランスの推進と人手不足の解消を併せ持つ施策として生まれました。
今回は、ジョブリターン制度を活用したF社様の事例をご紹介いたします。
勤務体系が不規則で仕事を続けられない…|F社の実例
F社はテレビタイトルの企画制作会社です。勤務は24時間体制でシフト勤務。休日は特定の曜日が決まっているわけではなく、深夜勤務も日常的な勤務体系に含まれています。
F社は20代~30代の若い社員が多いのですが、従業員面談を行った際、ある女性従業員Xさんから「この会社の仕事は楽しくやりがいも感じていますが、将来、妊娠・出産・育児をすることになった場合、不規則な勤務体系の中で、仕事と育児を両立していくのは難しいと思う」との声がでていたそうです。
ちょうどその頃でした。
世間では働き方改革で「多様な働き方」が取り沙汰されており、社労士としてF社に「ジョブリターン制度が最近話題になっていますよ」とご紹介をしたところ…
女性従業員からライフイベントを機に退職せざるを得ないという声を聞いたばかりの社長様から、従業員が一度退職しても再び戻ってきやすい環境を整えるため是非導入したいとのご要望をいただきました。
ジョブリターン制度の内容とは?
F社では早速、ジョブリターン制度の整備を行うことに。制度設計のポイントは次のとおりです。
●対象者の要件を明確にする
F社では下記のように設定しました。
・入社後1年以上在職したこと
・妊娠・出産・育児・介護・配偶者の転勤(配偶者の転居を伴う転勤を含む)により退職したこと
・離職していた期間が10年以内であること
・再雇用時の年齢が60歳以下であること
●再雇用時の条件を明確にする
F社では下記のように設定しました。
・会社が求人を行っている時期に応募があった場合は、本人の経験や能力等を勘案し、優先的に採用する
・再雇用時の処遇は、退職前の勤続年数、役職および再雇用時までの就労経験、能力開発の実績を評価して決定することとし、原則として退職時の職種・役職・賃金を維持するように努める
・再雇用後に教育研修プログラムを提供し、スムーズな職場復帰をサポートする
このように一つずつ検討し設計しました。ジョブリターン制度は、再雇用者と現職社員の間で待遇に関する不公平感が生まれる可能性もあります。再雇用の条件を慎重に検討することがポイントだと言えるでしょう。
まとめ
F社のジョブリターン制度は、ライフイベントを理由に退職した従業員に対して、再びキャリアを築くチャンスを提供し、企業全体の成長にも寄与する重要な施策となりました。
ジョブリターン制度導入により、新たな採用や育成コストを抑えつつ、即戦力として貢献できる人材の確保につながります。
このように、F社は従業員一人ひとりの多様なライフステージを尊重し、柔軟に対応することで、優秀な人材を最大限に活用できる組織作りを進めています。
「一度離れたら終わり」ではなく、柔軟に受け入れる姿勢が、企業イメージの向上にもつながります。
ジョブリターン制度があることで、ワークライフバランスや女性の活躍を推進する企業として、求職者からの関心も高まるのではないでしょうか。
F社では、実際にまだジョブリターン制度を利用して再雇用した人はいませんが、こうした制度が整備されていることで、現在働いている従業員の皆様が安心して働ける環境を整えることができました。
この記事を書いたのは…
社会保険労務士法人さくら労務コンサルティング 代表社会保険労務士
岩 井 真 規
医療業界、建設業、飲食業、小売業、美容業など幅広い業界に精通し、会社顧問として人事労務について指導を行う一方、個人年金の相談業務や手続も行う。得意分野は就業規則の作成等労務管理についてのコンサルティング。幅広い知識と経験に基づき各種団体のセミナー講師経験多数。
所属
大阪府社会保険労務士会 (平成15年9月登録)
経歴
淀川労働基準監督署 臨時労働保険相談員・通勤災害調査員
公共職業訓練校 社会保険実務 講師
大原法律簿記専門学校、LEC社会人セミナー 講師
全国社会保険労務士会連合会 事務指定講習 講師
近畿税理士会他各種団体、民間企業セミナーにおける講師経験多数
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