医療業界・建設業・美容業など幅広い業界の会社顧問として人事労務に携わる社労士 岩井がこれまで見てきた「働きがい創造実例」を紹介!
第一回目は「有給」にまつわる不満や課題を「プール休暇制度」で解消した企業様実例です。社員満足を高めたい方、有給に関する問題点を抱えている企業様、働き方改革を進めたい企業様はぜひ参考にしてくださいね。
プール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)とは?
プール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)とは、通常2年で時効消滅する年次有給休暇を積立てておけるようにする制度です。
導入することで、従業員の皆様は病気やケガで就労できない期間が長期間続いた場合でも、経済的・精神的に安心して治療に専念することができます。また会社にとっても人材の定着につながり、採用にも有利になりました。
プール休暇制度 導入前の課題
なぜ、プール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)を導入するに至ったのか?導入前の課題をご紹介します。
導入前の課題1.時効消滅前は有給休暇集中!業務に支障も
年次有給休暇は法律上2年で時効消滅してしまいます。A社では、年次有給休暇の付与基準日を4月1日に定めていたところ、消滅時期が近づいてくると年次有給休暇の申請が重なる事態が発生!
3月末という年度末で業務が繁忙になる中、出勤する従業員が少なくなってしまい業務に影響が出てもおかしくない状況が見受けられました。
導入前の課題2.消化できない従業員から不満の声
有給休暇を消化できていない従業員から不満の声が出ることも。
年次有給休暇を毎年使い切ることのできる従業員ばかりではなく、業務の特性上使用しにくい部署もありました。そのため、毎年かなりの年次有給休暇が時効消滅してしまう従業員もいたのです。
プール休暇制度導入による対策
これら課題を解消するためにプール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)導入しましたが、単に導入するだけでは改善にはつながりません。労使プロジェクトとして慎重にルールを設定いたしました。
改善のための対策1.利用目的は?
プール休暇制度は法律の定めがないため、積立の上限日数や利用目的などは自由に定めることができます。休暇取得の優先順位など運用ルールを定めて、みんなの満足につながる制度を検討しました。
改善のための対策2.上限日数は?
上限を設けないことが従業員にとって一番良いように思えますが、休んでいる間の人員配置や業務の遂行、また会社の経費の増大を考えると、上限日数を設けない制度も現実的ではありません。
検討した結果…
◆積立上限:40日まで
◆利用目的:①私傷病による療養 ②育児・介護 ③ボランティア参加 ④自己啓発・資格取得のための研修参加 に限定
◆優先順位:年に5日の年次有給休暇が未取得の場合は、そちらが優先
というルールが決定し、プール休暇制度を導入しました。
プール休暇制度 導入後の効果
プール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)導入後には、嬉しい効果が見られました。
従業員にとってのメリット
失効した年次有給休暇を積立できる制度にすることで、年度末の年次有給休暇の消滅を気にしなくても良くなりました。これまで消化しきれなかった従業員にとって、必要なときにまとまって使える有給休暇がプールできているということで、不満が改善されたようです。
例えば、万一病気やケガで療養が長期化し年次有給休暇がなくなってしまった場合(健康保険の傷病手当金を受けることはできますが)、金額は給与額の67%ですので、生活費に加えて医療費がかかることを考えると生活に不安がよぎりますよね。
その際に、通常の年次有給休暇とは別にプール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)があることで、40日を限度に100%の給与が支給されるため、大変心強いです。
会社にとってのメリット
年度末に年次有給休暇の請求が集中するという状態が回避されたことは、会社にとってのメリットと言えます。また、普段あまり利用できていない従業員に対して一定の公平な対応ができることも、良い効果です。
経費はこれまでよりもかかることになりますが、従業員のエンゲージメントが向上し、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながります。また、採用活動においても、会社のPRポイントとなりました。
まとめ
プール休暇制度(失効年次有給休暇積立制度)は、従業員に安心して働いてもらうことのできるといった点から職場環境が整備できるとともに、会社にとってもメリットが大きく、働き方改革にもつながる制度です。従業員の「休暇」に対する関心が高まっている昨今、導入される企業が増えてきています。
この記事を書いたのは…
社会保険労務士法人さくら労務コンサルティング 代表社会保険労務士
岩 井 真 規
医療業界、建設業、飲食業、小売業、美容業など幅広い業界に精通し、会社顧問として人事労務について指導を行う一方、個人年金の相談業務や手続も行う。得意分野は就業規則の作成等労務管理についてのコンサルティング。幅広い知識と経験に基づき各種団体のセミナー講師経験多数。
所属
大阪府社会保険労務士会 (平成15年9月登録)
経歴
淀川労働基準監督署 臨時労働保険相談員・通勤災害調査員
公共職業訓練校 社会保険実務 講師
大原法律簿記専門学校、LEC社会人セミナー 講師
全国社会保険労務士会連合会 事務指定講習 講師
近畿税理士会他各種団体、民間企業セミナーにおける講師経験多数
◆働きがい創造とは?◆
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「働きやすさ」を用意するためには、職場環境を整備する必要がありますが、何から始めればいいか難しいものです。コレカラヤでは「働きがい創造取り組み一覧」というチェックリストを作成しました。
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◆働き方改革に◆
働き方改革とは、働く人それぞれの事情に応じ、多様な働き方が選択できるようにすることです。働く人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。(厚生労働省 引用)
プール休暇制度を導入することで、まさしく「働く人それぞれの事情に応じ、多様な働き方が選択」できるようになると言えるでしょう。