【社労士が語る働きがい創造実例②】介護休業制度の周知と意向確認で仕事と介護の両立を支援

高齢化が進み、働き盛り世代の中にも家族の介護が必要となる方が増加しています。介護をしながら仕事を継続することは難しく、仕方なく「介護離職」を決断する方も少なくありません。

これから若い働き手が減っていくことを考えると、介護離職で人材を失うことは会社にとっても大きな損失です。

そこで、今回は介護休業制度を周知・意向確認することで仕事と介護の両立を支援した企業様の実例を社労士 岩井がご紹介します。

介護の問題は相談しづらい?退職前に知ってほしい介護休業制度

育児休業の制度は浸透してきましたが、介護休業の制度は意外と知られていないものです。「制度を知らなかったから」といった理由での退職を防ぐため、まずは周知することが大切だと言えるでしょう。

介護休業制度を周知する前の課題

創業22年のB社は、従業員約50名の服飾雑貨の製造販売会社です。少し前までは若い従業員が多かったのですが、結婚・出産などで家族構成も変わる中、介護が必要な家族のいる従業員も出てきました。

従業員X氏は、家庭の介護の問題を職場に相談しにくかったようで、欠勤の理由をはっきりと会社に伝えていませんでした。しかし、徐々に年次有給休暇だけでは対応できずに欠勤が発生。

上司が事情を聞いてみると、「親の介護が必要で休まなくてはいけない。欠勤で会社に迷惑をかけるので退職を考えている」とのことでした。

介護休業制度を利用することで、介護と仕事が両立可能に

X氏から話を聞くまで、介護休業制度について、会社で話題になったことがありませんでした。制度自体を知らない従業員も多く、また制度の内容も複雑なため利用した従業員は一人もいません。

そこで、この機会に介護と仕事について社内で実態把握を行うことにしました。

介護と仕事についてアンケート調査実施

全社員を対象にした匿名のアンケートを実施したところ、現在介護を行っている従業員や近い将来介護が必要な家族がいると答えた従業員が他にもいることがわかりました。

また、「介護休業・介護短時間勤務・介護休暇等の制度を知らない」という従業員も半数近くいたのです。

介護休業制度の周知

アンケートの結果を基に「まずは介護休業制度を知ってもらうことが必要だ」と判断し、下記の方法で周知を行うことにしました。

介護休業制度の周知方法

①介護休業等の制度や利用時の具体的な手順・必要書類等について説明資料を作成
②従業員それぞれに資料をメールで発信
③月に1度の全体会議にて①の資料を使って、対象者の条件・申請手続き・休業中の給与や保険の取扱い・雇用保険の介護休業給付・介護休業終了後の働き方についての説明を行う
④質問があれば相談できる社内相談窓口を案内

上記の流れで、全社員に周知を行いました。

介護休業制度の意向確認

介護休業制度について周知した後は、本人に意向確認することも重要だと考え、従業員X氏へ意向確認を行いました。

個別に面談を実施し、介護休業制度の利用について聞いたところ、「介護休業を利用したい」との回答。X氏が休業する間、一時的に派遣スタッフに来てもらうことで配属店舗の人員不足を解消し、93日を限度に介護休業を取得することになりました。

X氏は介護休業中に親御さんが入所できる施設が見つかり、仕事に復帰することができたようです。

まとめ

就業規則に介護休業の制度を記載していても、従業員が知らなければ意味がありません。

現在、子どもが生まれる労働者に対して育児休業制度などの個別周知と制度利用の意向確認をすることが企業に義務づけられていますが、2025年4月の法改正により、家族の介護を行う労働者に対しても次の措置義務が設けられることになっています。

・介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
・介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度に関する情報提供
・研修や相談窓口の設置など

B社では法改正に先駆けて、一足早くにこの制度を導入したことになります。

介護休業制度の周知を行ったことで、B社の従業員の皆様は介護に直面したときでも制度を利用しながら安心して長く働き続けられることがわかり、社内の働きやすさにもつながりました。

上司の理解や声掛けが必要であるため、管理職への研修も必要になりますが、制度の周知を積極的に行っていくことで、貴重な人材を守ることにつながります。ぜひ御社でも取り組んでみてください。

◇育児・介護休業法で定められている「仕事と介護の両立」のための制度

制度概要
介護休業対象家族1人につき通算93日まで3回を上限として介護休業を取得できる
介護休暇対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば10日まで取得できる休暇。時間単位での取得も可能
所定労働時間の短縮等の措置事業主は、①短時間勤務制度、②フレックスタイム制度、③時差出勤制度、④介護サービスの費用助成のいずれかの措置について、介護休業とは別に、利用開始から3年間で2回以上の利用が可能な措置を講じることが必要
所定外労働の免除要介護状態にある対象家族を介護する労働者は、所定外労働の免除を請求することができる
時間外労働の制限1か月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働の免除を請求できる
深夜業の制限深夜業(午後10時から午前5時までの労働)の免除を請求できる
2024年8月20日現在

◇雇用保険には「介護休業給付金」の制度があります

雇用保険に1年以上加入している人が対象家族の介護のために休業した場合、給与の67%が支給されます。(同一の家族について、93日を限度に3回まで支給)

この記事を書いたのは…

社会保険労務士法人さくら労務コンサルティング 代表社会保険労務士
岩 井 真 規

医療業界、建設業、飲食業、小売業、美容業など幅広い業界に精通し、会社顧問として人事労務について指導を行う一方、個人年金の相談業務や手続も行う。得意分野は就業規則の作成等労務管理についてのコンサルティング。幅広い知識と経験に基づき各種団体のセミナー講師経験多数。
所属
大阪府社会保険労務士会 (平成15年9月登録)
経歴
淀川労働基準監督署 臨時労働保険相談員・通勤災害調査員
公共職業訓練校 社会保険実務 講師
大原法律簿記専門学校、LEC社会人セミナー 講師
全国社会保険労務士会連合会 事務指定講習 講師
近畿税理士会他各種団体、民間企業セミナーにおける講師経験多数

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