【社労士が語る働きがい創造実例④】定年年齢の引き上げでモチベーションアップと人材不足解消

皆さまの会社の定年は何歳でしょうか?令和4年の就労条件総合調査(厚生労働省)によれば、60歳定年の会社が全体の72.3%と圧倒的に多いことがわかっています。

一方、高年齢者雇用安定法では、65歳までの就業確保措置をとることが義務付けられているため、定年を60歳とし定年退職後の再雇用制度を設け、1年毎などの期間を定め契約更新しながら65歳まで雇用するという方法は、広く採用されています。

ところが人材不足の昨今、60歳で定年退職すると、その人がしていた仕事をする人がいないという事態が起きるケースがあり、「定年退職させられない」という企業が増えています。
こうした中、定年年齢を60歳から65歳に引き上げることで有能な人材の確保と従業員の「働きがい」を実現した実例をご紹介します。

定年年齢の引き上げで課題を解決したD社実例

来年には製造部の部長がいなくなる?

D社は従業員約40名の自動車部品の製造メーカー。製造部には59歳のX部長がいるものの、後進の従業員の育成が進んでおらず、X部長が定年退職すると正常に業務が回らなくなることは明らかでした。

社外から受け入れようと求人募集をかけてみても、適任の人材を採用することができずにいました。

定年再雇用のY氏はモチベーション低下が著しい

さてD社には、3年前に定年退職し嘱託として再雇用されているY氏がいます。Y氏は営業部の次長でしたが定年退職後は役職を外れ、部下のZ氏が次長となり、Z氏のもとで嘱託社員として働いています。

次長から一般の従業員に立場が変わったことで業務内容・責任の範囲が変わり、給与も下がりました。またそれまでの上司と部下の立場が逆転したことで、Y氏のモチベーションが低下していることは明らかでした。

定年を65歳に引き上げることで、多くの課題が解決!

定年再雇用ではなく、定年自体を引き上げると人材確保・従業員のモチベーション問題共に一気に解決します。

D社はこれを機に定年を65歳に変更し、X氏には60歳時点と同様の役職・給与で同様の業務に従事してもらうことにしました。

定年年齢引き上げには注意点も!

定年自体を引き上げると労働力不足や再雇用後の従業員のモチベーション低下などの課題がクリアになりますが、定年年齢の引き上げにあたっては検討が必要な事項があります。

定年年齢引き上げ時に検討するべきこと①60歳以後の給与設計は?

60歳以後の賃金テーブルは新たに作成することとなります。
D社では60歳時点での基本給を継続し、60歳以後は定期昇給を行わない給与設計としました。また役職手当については、そのまま役職を継続する場合は役職手当もそのまま維持し、役職を外れる場合には役職手当のみ外すこととしました。

定年年齢引き上げ時に検討するべきこと②役職定年を設けるか?

D社には該当しませんが、場合によっては定年を引き上げると、役職ポストを高齢の従業員が占めて若い従業員がいつまでも役職に就けないとうケースもあります。
このような場合は、組織活性化を目的として定年は65歳に変更しつつ、「役職に就く年齢は60歳までとする」といったように役職定年制を設けることもあります。

定年年齢引き上げ時に検討するべきこと②60歳で定年退職を予定していた人の対応は?

D社では、別の従業員から60歳で定年退職を予定していたのに、定年が65歳に引き上げられたことで、60歳で退職すると自己都合退職扱いになり、退職金が減ってしまうという意見が出ました。
D社の退職金制度は、自己都合退職の場合は定年退職よりも掛率が低く設定されていましたが、60歳以後に退職する場合は、自己都合退職であっても定年退職と同様の掛率で計算するという制度設計に変更しました。

定年年齢引き上げのメリットとデメリット

定年年齢の引き上げを検討する方に向けて、メリットとデメリットをまとめましたのでぜひ参考にしてください。

メリットデメリット
・優秀な人材を長く会社に確保できる
・高齢社員のモチベーションが保てる
・高齢社員に知識、スキル、専門性を伝承してもらうことができ、人材育成が期待できる
・経営方針等を理解しているため、戦力となる
・人材採用に伴う時間、費用、労力を削減できる
・人材募集時にインパクトがあり、有利となる
・従業員が経済面の不安を解消できる
・人材を選ぶことができず、人件費が増大する
・従業員の高齢化が進む
・世代交代が進まず、職場の活性化が図れない
・健康や安全に関する一層の管理が必要となる
・労災に発展する事故が起きる恐れがある
・最新機器について再教育が必要

まとめ

定年を65歳に変更した場合には、健康・能力・意欲がやや気になる従業員であっても、原則として65歳までの雇用が必要となるため、定年の引き上げを躊躇される企業も多いと思われますが、昔に比べて健康寿命が延び、60歳では問題なく業務を遂行してもらえるケースが多くなっています。

また、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられ、65歳まで働きたいという従業員のニーズも高まっていること、加えて定年再雇用後のモチベーションを考えても、65歳への定年の引き上げを行う企業が増えてきています。
また、65歳定年は、長く働ける会社であることを訴求することができ、求人募集においても有利になりますので、是非検討されてはいかがでしょうか。

この記事を書いたのは…

社会保険労務士法人さくら労務コンサルティング 代表社会保険労務士
岩 井 真 規

医療業界、建設業、飲食業、小売業、美容業など幅広い業界に精通し、会社顧問として人事労務について指導を行う一方、個人年金の相談業務や手続も行う。得意分野は就業規則の作成等労務管理についてのコンサルティング。幅広い知識と経験に基づき各種団体のセミナー講師経験多数。

所属
大阪府社会保険労務士会 (平成15年9月登録)

経歴
淀川労働基準監督署 臨時労働保険相談員・通勤災害調査員
公共職業訓練校 社会保険実務 講師
大原法律簿記専門学校、LEC社会人セミナー 講師
全国社会保険労務士会連合会 事務指定講習 講師
近畿税理士会他各種団体、民間企業セミナーにおける講師経験多数

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